夜が
あったかい。
太陽は向こう側。
光と影は、わたしの中に、溶けた。
いまこそ、ひとりぼっち。
わたしは、毎日、死んで、毎日、生き返る。
手が動くのが気持ちいい。
足で、歩くのがきもちいい。
すりあし、つま先あるき、雨音にあわせて、耳が鳴るから、
体がつぶつぶ、しっとり、動き出す。
身体の形をいくつも変えて、泣いても笑ってもいない。
ただ、喜んでいる。
錆びた手摺りが、トラックのテールランプが、アスファルトの白いラインが。
冷たさと一緒に、温もり。
一本のたばこの小さな煙に、ひとりでつぶやく。
「見つけた。見つけた。見ぃつけた~。」
あたしは、毎日死んで、毎日、生き返る。
鼻を通る空気、今だけの湿気に。
髪を、どうしても、ほどいてしまう。
そして、髪の一本一本に、触り心地に、おどろく。
ヘアゴムが伸びたり縮んだりすることにおどろく。
雑踏の中の人と人が、誰かがだれかを眺める視線が。
たくさんのひとりぼっちが。
その配置と空間が。
何かを待っているけど、もう、とっくに、待ってなんかいない。
そっと、遠くまで、広がっていく、生の実感。
意味をもたない言葉が、喉を鳴らす。
傘をさす老人の、
傘の形に驚く、おじいさんの手の皺と血管におどろく、
垂れた頬と、瞼の産毛。
血脈の列車。
見上げた空の、鳥のはばたきが、エイトビート。
わたしは、毎日死んで、毎日、生き返る。
家と、家、部屋と、部屋の、明り、だれかの生活。
いくつもの世界。
うっかり見上げた、夜空の見えない無数の星。
見えない星から、夜空見上げても、地球は太陽ほどみえないだろうけど、
街の灯り、ビルの光、電灯の。家の。たき火の。
一本のたばこの小さな火。
ゆっくりすぎて、回ってるように感じることのできない地球の、
素早く燃える、一本の短い命、今が燃えて、青白い煙は、竜巻。
そうして、わたしは、毎日死んで、毎日、生き返る。
そんでもって、わたしは、おどろく。
アルミニウム缶、陶器、紙、机、鉛筆、ふた、ティッシュ、窓、カーテン、
TV,パソコン、蛍光灯、部屋、壁紙、レール、本、文字、
人間たちの発明品に、おどろく。
夕食の、一品、一品に、おどろく。
その色に、味に、触感に、
風呂場におどろく、シャワーにおどろく、
お湯に驚く、湯沸かし器におどろく
発見する、工具に、発見する、
この構造。この使い心地。
わたしは、発見する、色を発見する、形を発見する。
感情なんて、吹き飛ぶくらいに、
あたしなんて、吹き飛ぶくらいに、世界そのものに、
感動する。
あなたの所作が、血液が、遺伝子が、夜が朝が、
空気も含めて、全部が、この世を満たしてくる。
あ!から、ん!!の間の全部にぶっとばされる。
一滴、一滴、と、落ちる雫の、リズムに聴き入る。
わたしは、いつまでも、時間と空間と、想像力と、ひとりぼっちに
愛されて、
死のことも、生のことも、完全に、忘れてしまう。
わたしの微熱。
こうして、あたしは、社会性を失っていく。

なにもかも、世界のせいだ。
まちこ